種の起源

虫やってる人は、撮る人も採る人も「いろんな種類の虫を見たい」というのがメインの動機でしょう。日本はその点種類が多いので恵まれてます。
でも甲虫の場合、外見はほとんど同じでも交尾器の形だけ違うとか食べる植物が違うとかよくあります。食べる植物の違いは虫を探す時に重要な要素となるけど、交尾器となると「俺はいろんな形のチンコ見たくて虫やってんのか?」と自問することに。
逆に同じ種類でもナミテントウみたいに模様が全く違う(http://nemutou.fc2web.com/namitento/namitento.html)とか、google:image:オオセンチコガネみたいに金属光沢の色合いが地域で全く違うとか、そういうのは一番きれいな奴を見るまでは制覇した気分になれません。さすがにナミテントウの模様全部集めてる人とかあまりいないだろうけど。
こういう感じで、「いろんな種類」と言った時にその定義がわりと曖昧になってしまいます。そもそもなんでそういう微妙に違う種がいるのか。以下の記事が考察の手がかりとなります。

「別の種類のセミ同士も交尾しますよ。アブラゼミとミンミンゼミがよく交尾してます」

この例だと受精しないらしいけど、もっと種が近い場合は一代かぎりの雑種が出来て、そいつは生殖能力ないのでそこで終わりです。せっかく交尾して子孫作って、そいつが7年も成長して地上に出たらセクースできないとなった日にゃ悲惨です。こういう間違った交尾が頻発すると種の存続の危機。実際沖縄でミバエを駆除する効果的な方法として放射線を当てて生殖能力をなくしたミバエを大量に放虫するというのがあります。地域的に分断された後に種の分化が起こる場合は何も問題ないけど、同じ地域で共存している場合は非常にやばい(http://en.wikipedia.org/wiki/Speciation#Sympatric)。 A,Bの二種類が見境無く交尾した場合、次の世代はA,Bの純血が1/4づつ、残りの半分が生殖能力のない雑種となり、単純計算だと世代ごとに個体数が半減します。
で、こういう状況では間違った相手と交尾しない何らかの習性があると、強力な淘汰圧となって働きます。たとえばちょっとした身体的特徴を選択して交尾するとか、別々の植物を食べることで同じ相手と出会うようにするとか、交尾器の形が変わって交尾できなくなるとか。それらは個体の生存の上で有利に働く必要はなく、むしろ逆の場合もあるけど緊急事態なんで関係ない。たとえば異様に尾の長い鳥の種類でメスが尾の長いオスを性選択するような場合、一旦そういう傾向ができるとエスカレートすることがドーキンスの「ブラインド・ウォッチメイカー」ISBN:4152085576 に出てますが、もしかしたら初めのきっかけは雑種を避けるという切実な問題だった可能性もあります。
違う植物を食べる場合も、ちょっと植物が違っただけで消化器官や酵素が別に必要になるとは考えにくいです。全部食べた方が有利に決まってるし実際クロウリハムシウリハムシはいろいろ食べる。そのせいか個体数も非常に多い優占種になってます。食べる植物が決まっている多くのハムシはもしかしたらそういうきっかけで分化したのかも。一旦分化しちゃえば今度は生存に有利な性質が淘汰されていろいろ形も変わってくるけど、分化してまだ日が浅い種類は微妙な違いしかないということだったりして。カサハラハムシとかカミナリハムシとか。まあミトコンドリアのDNAとか調べれば分かる話ですが。
あるいは、そういう傾向が出た後に更に変異して一代以上の雑種が不可能な種に分化する、さもないと変異したほうが絶滅するという順序なのかも。

さて現代日本で、生殖に関与しない二次元亜種との擬似交尾に励むオスたちは別種としてそのうち分化するんでしょうか。なんちて。

こういうことを考えるきっかけになったのが以下の本

虫のフリ見て我がフリ直せ

虫のフリ見て我がフリ直せ

養老氏がアホみたいにいっぱい集めてるゾウムシは二種類が全国できれいに分離して所によってはパッチ状に分布してるそうな。ランダム磁場Isingモデルとかで再現できるかな。
あとは、DNA配列の「バベルの図書館」において淘汰以前に発生、細胞分化などが正常に進行できる配列はごく一部で、いくつかの孤立したクラスタになるであろうと、そのクラスタが門とか目とかの上位の分類に対応してるんじゃないか、という話が面白かった。
この辺の分類ってけっこう主観に左右されるようで、「ブラインド・ウォッチメイカー」にも様々な分類の流儀が分類されています。
参考 http://www.stb.tsukuba-ac.jp/tkasuya/nedoko/kouza/bunrui2.htm