王の帰還』前半はストーリーでぐいぐい引っ張るので、まったりと文体の微妙なニュアンスを味わう余裕がなかった。一つ気になったのは「最終戦略会議」の章の原題「The last debate」。この章の冒頭でレゴラスギムリが「ゴンドールの石工はまあまあだが、はなれ山の連中ならもっとうまくやれる」「いや、もっと緑が必要だよ。闇の森から仲間を連れて来て木を植えるべきだ」と漫才をやってる。章の名前にある "debate" はこの部分も指してるのかな、と思う。でも "last" かというと違うっぽいんだなぁ。もっと熱い議論をこれからも延々とするだろうから。
あとはキャンプ地でエルフヘルムが寝ているメリーにつまづく場面、「お詫びに何が起こっているのか教えてくれるくらいは出来るでしょう」/"The least you can do in amends is to tell me what is afoot."[what is afoot] というのが洒落というか皮肉になってる。
で、後半サムのパートに入るとイベントが少ない分だけ一気に文章が濃くなる。それに合わせて瀬田訳も全開バリバリ!!


He wondered what the time was. Somewhere
between one day and the next, he supposed
時間はいったい何時なんだろう、さっぱり見当がつかないが。
(この後では day が昼という意味でつかわれてる。こういうの訳しにくいですね)
a great welter of cloud and smoke
うねうねもくもくと続く雲と煙の巨大な塊り
with all his ears
体じゅうを耳にし
notched and jagged with crags like fangs
牙なす岩が突兀と連なって
with a great surging and throbbing
巨大なうねりとなり、ドッドッと脈打って
(食糧はあるのか、と聞かれて)
Save me!
南無三!
(茨に落ちて)
Bless me!
おどろきもものき茨のき!
(最高。こういうのが浮かずに馴染んでるのが山本訳と違うところかな。)
他にも一ケ所、"Bless me"を「おどろきもものき」と訳してあった。
あっ!!もしかして庭氏だからなのか!? うん、
日常的に「おどろきもものき」と言っているサムやとっつぁんが
自然に思い浮かぶ。瀬田訳、おそるべし!
スメアゴル: Lost, lost
瀬田訳では「負けた」と訳してあったけど
「なくした」「迷った」「(自分が)消える」
でも意味が通るな。錯乱してる場面だから
全部混ざってるんだな。


あとサムのセリフは do/make/have/put/get といった動詞を使った熟語が多い気がする。そういう熟語は膨大な種類があるので字面の簡単さに惑わされて辞書引かないと意味が分かりにくかったりする(自分は熟語も検索できる電子辞書使ってるのでとても助かった)。例えば "make do" で「間に合わせる」という意味だとは知らなかった。木登りや水泳は下手だけど、綱を結ぶといった実用的なことは得意なサム。学はないが身近な物で間に合わせる生活の知恵には秀でているサムの質実な感じを良くあらわしてると思う。

'Come on, Mr. Frodo dear! Sam will give you a ride.Just tell him where to go, and he'll go.'
涙・涙・涙

指輪物語BBC のラジオドラマ 第二話、MDに録音。パソコンのスピーカーに比べてヒアリング率大幅アップ。しかしバタバーのセリフはきつい。
歌はやっぱ耳で聞くといいなー。ホビットたちの歌は単純だけどキャッチーで耳に残る。
あとはマゴットの茸ってのがどういうのか気になる。ビールを飲みつつ食べてみたい。イギリスの田舎で茸を料理する場合どういう茸なんだろう。