刊行日 : 2016/08/24
- 作者: グレッグイーガン,山岸真,中村融
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/08/24
- メディア: 新書
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故郷の惑星を直交星群との衝突による滅亡から救うため、巨大ロケット〈孤絶〉が飛び立って数世代後。いまだその解決策が見つからないなか、〈孤絶〉の天文学者タマラは、近傍を通過する天体〈物体〉を発見する。この宇宙の特異な性質から、直交星群の物質でできた〈物体〉はただの岩ではなく、母星帰還への道をひらくエネルギー源になるかもしれない! 光と物質の新たな法則を見いだそうとしていた物理学者カルラは、タマラとともに〈物体〉探査チームに加わるが……。現代ハードSFの旗手イーガンが、我々の世界とは異なる物理法則に支配される宇宙を描いた〈直交〉三部作、第二弾!
量子力学の確立という一大科学イベント、別の宇宙だとどうなる?という壮大な思考実験。スピノルが四元数で表せるので、とっても簡単になるそうです(白目)
急げ<弧絶>。故郷滅亡のその日まで、あと∞日
献本御礼。見本が届きました。
何の話なのか
この三部作でイーガンが考えていること、それはズバリ「時間とは何か」でしょう。哲学的な難問ですぐ答の出る話ではないですが。
物理の法則の中には、時間の特徴である、前に進めるけど後ろに戻れない、原因があって結果がある、といったことが数式として出てきています。ではその数式をいじくって、我々の世界の時間の特徴がなくなるような式にしてしまったら、どういう世界が出てくるのか。それを描くことで時間に対する洞察を得る、というのが一番やりたいことのはず。そいうった哲学的テーマが一番前面に出てくるのが第三巻になります。
一、二巻ではウォームアップとして、相対性理論と量子力学がそれぞれ我々の宇宙とどう違ってくるか、という話が展開されます。相対性理論は我々の世界より非常に分かりやすく単純になり、その帰結としてストーリーの鍵となるアイディアが出てきます。
量子力学はどうか。全然単純になりません。むしろ面倒になるかも (参考: http://d.hatena.ne.jp/ita/00000202/p19)。そしてあまり派手な違いは出てきません。第二巻ではこっちの宇宙より困難な状況で量子力学を確立していく過程が描かれます。
とかく量子力学というとその奇妙な側面ばかりがクローズアップされ、シュレディンガーの猫とか言葉だけが独り歩きしてアニメで適当な設定の味付けに使われたりしてます。しかし量子力学が確立する以前の、「なんでこんな実験結果になるんだ意味がわかんねー」という混乱状況に「なぜか分からんけど、こういう変な仮定をしたら全部説明できるようになった!」という強烈なAha体験を伴って颯爽と登場したのが量子力学です。第二巻である本書の背後には、そのようなAha体験を読者にも体験してほしい、という作者の強い願いがあるように思います。
こちらの量子力学を熟知していて、全体像が既に見えている人であれば、読んでいて「志村〜!第二量子化!第二量子化!」などとツッコミをいれつつ楽しめるでしょう。そうでない場合でも、苦労はするけど、後ろにいる幽霊にいちいちビックリしつつ楽しめるんじゃないかと思います。
マニア向け
あちらの世界では電子相当のものが光子を出して上のエネルギー準位にいきます。そんなむちゃくちゃな世界で物質が安定に存在できる?できるんだなこれが。