巷に「わかんねー」という感想が溢れるイーガンのハードSF作品群ですが、一部には内容に踏み込んで面白がってる読者層もおります。
なぜ分かるのか。実はカラクリがありまして、読んでその場で考えてるんじゃないのです。既に考えたことある話なのです。
たとえばクロックワーク・ロケット、作者が「次回作は物理の方程式の符号を一つ変えた宇宙の話です」と公表した時の自分のblog記事:http://d.hatena.ne.jp/ita/20091110
この記事に書いたような話は、実際作中で登場人物たちが議論を行っています。なのでそのあたり、普通は頭を抱える部分が「あーそうねーそうねー」と答え合わせをしながら流し読みするだけで済むので、考えなくていいのです。時間と空間が全く等価な宇宙がどのようになるか、なんて話も『白熱光』やら『対称』やらで何度も出てきた話なので、「分からない」というのが全く分からない、ですね。
まーあとは球面調和関数とか線形方程式とか、マニアックなもんが出てきても掛け算99みたいに小脳レベルで身についてる話なんで大脳は疲れません。そのへん普通の読者の脳の負担というのをこの人は過小評価してしまうのかも。
良く訓練されたイーガン読者というのは、普段から「これイーガンのSFぽいね」という科学ネタに遭遇すると、イーガンだったらどういう話を展開するかな、とか常に考えています。「イーガンぽい」てのは、科学と哲学の境界あたりで、面白いんだけど科学研究のテーマとしては「飯の種」になりにくい、自由意志とか時間の矢とか観測問題とかブラックホールの中の話題など。高校生の頃「宇宙とは何か」みたいな問題にチャレンジしたいと思っていたけど、今はもっと地味な研究をしている科学者の高2的妄想をイーガンは具現化してくれます。
そんな中で、「クロックワーク・ロケット」の参考文献を辿って出てきたテグマークのアイディアは不覚にも全くノーマークでした。
数学的宇宙仮説
うーん、イーガンSFそのものじゃないですか。これでランバート人とかACとか、いろいろ納得がいく気がする。
SFファン交流会2016年3月例会「イーガン世界を読み解く」
こんなのがありました http://togetter.com/li/954412
訳者の山岸さん・中村さんがゲストでしたので、用語チェックの時にうかがってた翻訳の話に関していろいろ質問できて面白かったです。使えなかった訳語「立往生」「無双山」「十中八九」「宇宙船」「地球化学」などなど。
あと話題にしたのは上記の数学的宇宙仮説の他、物理学者が時の矢に関して議論しているblogにイーガンさんがコメントしてる話とか。時間逆向きの惑星を歩くとどうなるか。(リンク修正)
http://www.preposterousuniverse.com/blog/2007/12/03/arrow-of-time-faq/comment-page-4/#comment-34393