グレッグ・イーガン『Schild's Ladder』 ISBN:0575073918 【アマゾン】

(作者のサイト)『宇宙消失』ってタイトル、この本のためにとっておいた方がよかったかも。量子重力理論の実験で真空相転移がおきて、現在の真空より安定な真空がどんどん広がっていく。そこではこの宇宙で近似的に成り立っている物理法則は通用しないんで飲み込まれたら多分死ぬ(まあイーガンのことだから違うかも知れんけど)。新しい真空は、現在の真空とそれと対称な真空を48個線形結合して出来るらしい。観測によって収縮しすぐ消えると思われていたけど、逆にいうと今の真空は新しい真空の重ね合わせで出来ているので、逆に観測されることで収縮して新しい真空になってしまう。
この真空が 0.5c で広がって行く、ってのが都合が良すぎる気もする。光速で広がる方がそれっぽいけど、それだと気が付いた時にはすでに飲まれてるんで、話が続かない。でも 0.5c なら察知できる。人類はほとんど電子化されフレッシュレスになってるので(子供はどうやって作る?)光速で銀河系を逃げ回ってます。真空が光速で広がっても、EPRペアをほにゃらら、とかでっち上げて事前に察知することはできそう。DNA が分離するとき量子エンタングルメントが生じて、それが子々孫々まで受け継がれる、なんて話を書いたイーガンだからやってもいい気がする。あ、でも光速で逃げてる間は意識がないだろうから、どこかで実体化しても主観的な余命は長くはならないな。
いやーしかし、いろいろ笑えるなあ。主人公が無重力状態で上下が分からなくなって混乱したとき、一緒に行動している、生まれたときからサイバースペースにいて最近実体化した奴に、「君のいた世界では上下の概念はあったかい?」と聞くと、「生まれた時は CP4 という複素四次元空間の一種に住んでいた。でも物理を学ぶ時は三次元空間に行ったりした。でもニュートン力学は座標と運動量が別になったシンプレクティック六次元空間にいた方が良く分かった。」とか、大笑いです。CPn についてはBaez氏の解説があります。
しかし、まだ50ページくらいしか読んでないのに、いろいろ感想書くネタでてくるなー。濃ゆい本です。