カラマツとカラマツカミキリ

昨日の写真の整理が終わらないのだけど、狙いの一つで見つけられなかったカラマツカミキリについて色々調べて長くなりそうなので順番が前後するけど別エントリとしてまとめる。

まずはそのホストであるカラマツ。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%A9%E3%83%9E%E3%83%84
天然のカラマツは1500〜2200mの森林限界直下の亜高山帯にもともと生える植物で、どこにでもあるものじゃなかった。具体的には鳳凰山とか、富士山五合目とか、上高地なんかに生えている。
しかし明治に入って北海道で大規模なカラマツ植林が行われる。北海道にはもともとカラマツは自生していなかったけど、今ではカラマツだらけの場所も多いとか。
また戦後、長野や山梨でも大規模に低標高地への植林が行われた。軽井沢、戸台、大菩薩近辺、トクサ峠、富士山麓、どこもカラマツ植林が多い。
ここで富士山だけは少し特殊で、300年前の噴火で植生が一度リセットされ、その後鳥の糞とか焼け残った種かなんかによって五合目付近にカラマツ林ができた。その後経済成長期に5合目より下がほとんど伐採されカラマツ・シラビソなどの植林が行われた。

次にカラマツカミキリ

「栃木県のカミキリムシ」によると、1980年に日光湯元で発見され、とちぎ昆虫愛好会の会誌「インセクト」に掲載された http://kawamo.co.jp/roppon-ashi/sub156.htm

  • 栃木県産カミキリムシ追加報告II 森島直哉 31(2):77-78(1980) 日光湯元 1980 8月〜9月採集

次に月刊むし 116 (1980)にて詳しい形態などが紹介されたようだ。
「図説長野県のカミキリムシ」によると翌年、旧安曇村(おそらく上高地)にて1981年8月21日に採集されている。また「山梨県カミキリムシリスト」によると二年後の1982年7月31日に南アルプス市両俣(北岳の西)にて池田清彦氏が採集している。その後、1984年の『日本産カミキリ大図鑑』で種として正式に記載される。
新種発見の報に沸いたカミキリ屋達が、我こそはと各地のテンカラ林へ追加記録を狙いに行った当時の熱狂が伝わってくる。
富士山付近では1984年8月5日に五合目付近で、2008年7月30日に滝沢林道で採集されている。
なお、栃木県RDBによると奥日光の湯元以外のエリアは保護地区とのこと
http://www.pref.tochigi.lg.jp/shizen/sonota/rdb/detail/18/0090.html
また上高地、富士山五合目奥庭付近も現在は特別保護地区で採集できない。

生態に関して、「図説長野県のカミキリムシ」から要約すると、「通称テンカラと呼ばれている直径1m以上の木で樹皮は厚く木肌はがさがさしている。この立ち枯れや生木、衰弱木に見られる。地上から2m位の高さに見られ日中割れ目に静止していたり、歩き回ったりしている」とのこと。なんとなくノトリナの生態に似ている気がする。

というわけで、戦前は亜高山帯の限られた場所にしか生息せず、トドマツカミキリに酷似するために見つからなかった、あるいはトドマツとして標本になっていたが、大規模な植林によって低標高の植林帯にまで広がってきて、1980に発見されたということではなかろうか。あるいは北海道への移入に関しては、飛翔によって北海道へ拡散することは不可能なので、ロシアや北朝鮮から持ってきた材なんかについて移入してきたということも考えられる。植林の際には苗を本土から持っていくけど、苗に幼虫や卵がつくことは考えられないので、植林とは別のルートで移入したという可能性がある。

富士山に関しては、おそらく上部の天然カラマツ林から徐々に植林帯へ飛翔によって広まることが考えられる。滝沢林道では1600m付近から天然カラマツが始まるので、記録はそのあたりでの採集かもしれない。