イーガン新作

恵贈御礼。今回は物理とかほとんど出てこないので貢献はほとんどしていないのですが、恐縮です。

ゼンデギ (ハヤカワ文庫SF)

ゼンデギ (ハヤカワ文庫SF)

内容について英語版を読んだときの記事を一部再掲
http://d.hatena.ne.jp/ita/20100702/p1

時は2027年、ライバルに客を取られたネトゲ開発者が、起死回生の策として本物の人間と見分けがつかないbotというかNPCを作ろうと思い立つ。実はこの開発者はかつてMITで脳をスキャンしその機能を再現する研究をしていた研究者で、オープンソースになった人間の脳のデータを使ってbotを作ろうとする。しかし、チューリングテストを通ってしまうbotって意識あるんじゃね?という話。近未来の話なので、今ある技術の延長であらゆる可能性がリアル(っぽく)検討されている。
前半1/3を占める第一部は2012年が舞台で、この作品の「現在との地続き」感を増強している。ちょうどストロスの『アッチェレランド』ISBN:4152090030 第一部みたいに。話は主人公が引越しのためLPレコード4箱分を7日かけてmp3に変換するところから始まる。せっかく変換したのに後で聞いてみたら大ポカしてたことが判明!という話。このジャーナリストの主人公がイランへ取材に行き民主化デモと政府の衝突に巻き込まれるけど、そこでは携帯やネットなどが民主化革命に決定的な役割を果たすというところが今っぽい。もう一人の主人公はイランからアメリカへ亡命した女性。MITで脳の研究してるポスドクで母親はハーヴァードで経済学の教授やってる。出てくる人がみんな都合良く頭よすぎるのはいつものイーガン。

ちなみに3章に出てくるMITのStata Center はこれ↓。シュールな外観だけど設計者が訴えられた。
http://tech.mit.edu/V127/N53/lawsuit.html
この建物の学食でポスドク達が30秒プレゼンゲームをする場面。(翻訳版の文ではありません。当時の自分による意訳)

「じゃあ、30秒で自分がAMAZONに絶対必要な人間だと思わせてみて」
AMAZONかよ!国税局のほうがマシだよ」
「あと25秒」
「わかった。じゃあ、えー、言語心理的圧縮を使ってテキストを圧縮する技術を提供いたします。いわばテキストのmp3です」
「圧縮?Kindle で容量は問題にならないんじゃない?」
「容量の問題じゃなく、時間の問題です。削れる部分を削って粗筋を自動生成するような。それを読んで例えばプルーストの大作を読破した時と同じ感想が得られるなら、時間を大幅に節約できます。」
「でも、人によって印象に残る部分は違うから削るのは難しいんじゃない?」
「そこは各人の脳に合わせてカスタマイズします。脳のデータがあれば他にもAMAZONからのお勧めを決定するアルゴリズムを大幅に改善できます」
「よし、採用!」