剣砕けたり：語られざりしミッドウェイ海戦

Shattered Sword: The Untold Story of the Battle of Midway

日本側の視点でミッドウェイ海戦を詳細に検討した大著。日本側の記録としては南雲、源田、淵田といった当事者の残した記録がこれまで英語圏で主に参考とされてきたけど、当事者ゆえの色眼鏡や後知恵がいろいろと後年判明してるそうな。
これに対し著者らは徹底的に事実に基づいた分析でミッドウェイを「現在形」で、つまり当時の視点で語っている。
第一部では南雲、源田、山口といった機動部隊の中心人物たちの来歴、性格、彼らの力関係などから機動部隊という組織を分析。また連合艦隊という組織における機動部隊と山本五十六ら司令部の関係、山本五十六と海軍本部および陸軍との軋轢、日本軍という組織の日本における位置、日本という国の世界における立場などを明治以来からの歴史を元に説明している。そこから、日本がこの無理ゲーをなぜ始めるハメになったか、どう勝とうと思っていたかという背景に基づいてミッドウェイ作戦とアリューシャン作戦が立案された過程を説明している。
第二部は海戦の過程を詳細に描く。日本海軍の航空機および空母の運用規定をベースに整備員やパイロットの一挙手一投足を活写していて、赤城の甲板上で見ているような解像度がある。以下は第一時攻撃隊の発艦シーン。

On the flight deck, the sho-hiko-cho- blew a whistle, then swung his red lantern in a great circle. On the bridge, Masuda used a signal lamp to alert all the planes on the deck to begin taking off. Simultaneously, another officer on the air platform began vigorously waving a white flag toward the direction of the bow. Having retreated to the side of the flight deck, the sho-hiko-cho- then signaled to the deck crewmen to remove the wheel chocks, which they did before scurrying to the deckside shelters. Making last-minute check behind him again, Shirane upped his throttle and yelled, "Ikimasu! (I'm going!)." His plane surged forward as Shirane gunned it. Within a few meters his tail came off the deck ...

映画「ミッドウェイ」の攻撃シーンは「トラトラトラ」の使い回しだし、ジョン・フォードの実録映像は米軍側だけ。今後バリバリCGでリバイバルされるとしても「パールハーバー」を思い出せば考証がデタラメになるのは明らか。今後数十年はあらゆるメディアのなかでこの本が最も優れた作品として君臨する。
まあしょうがないからこれでも見ますかね。逆ミッドウェイ。１の七色星団もモロにミッドウェイだったけど