SFMテッド・チャン特集

予期される未来

Nature に載ったとき読んだけど、こんなに短かったんだ、意外。What's expected of usというダブルミーニングっぽいタイトルがナイスに訳されているなぁ。

商人と錬金術師の門

決定論と自由意志、時間反転対称性(未来も過去も変えることはできない)を扱った「予測される未来」を、もっとお話っぽくしたもの。面白い。自由意志の問題は全知全能の神がいるとするキリスト教なんかの宗教では重大問題。例えばトールキンの場合、地球は全知全能の神のエージェントである14柱の個性的な神に運営を任されているという設定を考案し、初期設定から決定論的に発展していた時代から人間たちの自由意志による発展の時代への遷移が描かれる。チャンのこの作品では「アッラーのおぼしめしのままに」というフレーズが決定論的諦観とうまくマッチしている。

タイムトンネルを数学的に定義すれば、時空のある2点を同一視する、ということになる。入口と出口が「空間的」関係にあればワープできるワームホールとなる。時間的関係にあればタイムトンネルとなる。この作品だと時間的関係にあり、入口と出口がおなじ空間位置(地球座標系で)に存在しつづける。そして入口と出口は平面で、表裏の位置にある。
この設定であらゆる可能なストーリーの集合を考えてみる。そこからランダムにストーリーを選んだ時に出てくる典型的なストーリーは、タイムパラドクスを含まないものになる。辻褄を合わせるために終盤になって確率的に低い事象が起こってパラドクスを回避するものも可能だが、そういう「経路」は「作用積分」が大きくなりウェイトは減る。

可能なストーリーとして、時間的ループも考えられる。20年後から謎の人物が門からやってきて、そのまま暮らして20年後に門に入って過去へもどる。こういうのも許される。しかし20年の間に肉体的、精神的に変化しないという条件がつく。あるいは門に入る直前に元に戻る、というのでもいい。若返って、20年の間の記憶を全て失う。ちょっと人間では難しい。プロメテウスみたいに罰を与えられた神、という設定ならいけるかも。

ん、面白い話をおもいついたぞ。while(1){ ある男が記憶をなくして目覚める。全身焼けただれているがすぐに治る。自分の正体を探って色々旅をする。自分が全く年をとらないことを発見し謎は深まる。タイムゲートの噂を聞いて、記憶をなくす直前の場所へいけば何か分かるかも、と思い立ちタイムゲートを捜し当てる。話を聞くとどうやら自分が作らせた物らしい。ゲートをくぐる。出てみると目の前にゼウスがいる。人間にタイムゲートの秘密をもらした罰としてお前は永遠の時間に閉じ込められるのだ!といってプロメテウスを雷が打つ。失神して記憶がなくなる。}