グレッグ・イーガン『Diaspora』 ISBN:0061057983 【アマゾン】

作者による解説

PART 3 部分を読み終る。Kozuch 理論というワームホールに関する仮想的な理論が説明されている。巻末の参考文献にある、``Gauge Fields, Knots, and Gravity'' byJohn C. Baez and Javier P. Muniainから訳して引用。

ワームホールモノポールは理論物理において思弁の極北に位置し、SFと紙一重である。

..中略..

相対論研究者のジョン・A・ウィーラーは、ワームホールの「口」が電荷を持った粒子として振舞うという興味深いアイディアを提唱した。電気力線が一方の口に流れ込み、もう一方から流れ出すことで一方の口が負の電荷、もう一方が正の電荷を持つ粒子のように見え、その電荷は符号が反対で絶対値が等しい。もしワームホールの計量と、ワームホールを流れる電場(あるいはゲージ場)の相互作用を記述する理論ができれば、このようなワームホールが様々な安定状態をとり、それらが異なる世代の粒子に対応することを示せるかもしれない。さらに質量を計算することさえ出来るかもしれない。残念ながら、これらは現在のところ夢にすぎない。なぜなら..以下略

この夢が実現したという設定。素粒子の振舞をエレガントに説明するため導入されたワームホールの概念だけど、いわゆるワープに使うためには大変な装置が必要、という設定。とほうもない大きさの加速機でついにワープの実験が可能になる。はたしてその結果は、、、

実験結果から理論の大幅修正が必要になり、ほとんどの研究者はこの理論を捨ててしまうが、登場人物の一人は単身この理論を発展させようと試行錯誤する。研究がうまくいかない様子が描写されてて、生々しい。
以下内容に触れる話なので透明化
追記:ネタバレじゃないので解除
対生成したペアはずっとワームホールでつながっているらしい。それだと粒子の同一性がなくなるような気がする。
ボゾンは二つの口が重なっていて、360度回すと全体で720度回転し、ディラックのベルト手品によって0度に戻れる、という設定。フェルミオンが二つ合わさってボゾンになるのも再現できるかな?
ワームホールで瞬間的に違う地点へ移動するとなると、どの座標系で見た同じ時間へ行くのか、という問題がある。別の座標系で見ると同時刻に二つの地点に粒子があったりする。またワームホールを組み合わせてタイムトラベルも出来てしまう。ローレンツ共変にするのは難しそう。
単純に空間の2点を同一視する、ということになるだろうけど、簡単のために空間が一次元で周期的な系を考えてみた。単純なローレンツ変換だと等時刻面が螺旋状になって変になる。それに一周する長さとかローレンツ変換で変わるかも。なんか変だ。検索したらずばりの解説を発見。そうかやっぱり駄目なんだ。
追記:全ての等速運動をする座標系が等価だと仮定する。ある点(これを全ての座標系でx=0, t=0とおく)から右と左に光を出すと、両方とも同じ距離だけ進んで宇宙を一回りして x=0, t=L/c で出会うはず。つまり任意の観測者について観測者の世界線上で左右の光が出会うはずだけどそれはありえない。したがって始めの仮説は成り立たない。やっぱりどことどこがつながるか、というところが座標系に依存してしまうんだろうな。
タイムトンネルのある系での拡散方程式とかシュレディンガー(あるいはディラック)方程式なんか考えると面白いかも。未来の値が必要なので単純な時間発展の陽解法は使えない。反復計算でself-consistent にしないといけない。変な場合だと収束せず発散したりするのかな。