ハーラン・エリスン短編集 Shatterday

Shatterday

Shatterday

収録作品は主に1970年代に書かれたもので、出版は1980年。
ところでエリスンといえば前書き、前書きといえばエリスン。どの本もだいたい冒頭に長い前書きがある。「危険なビジョン」なんかのアンソロジーでも他人の全ての作品に前書きを書いている。この短編集は冒頭の前書きはそんなに長くないけど、そのかわり各短篇の前に全部前書きがあり、作品を書いた経緯が説明されている。作品の内容的にもエリスンの半自伝的なものが多く、背景と切り離せないものが多い。またイベントで一日で書いた作品や、〆切間際に1日で書いた作品というのが4つくらいある。前書きで言い訳してんじゃないかと邪推したくなる。作品は作家と切り離して読むべき、という主義があるけど、この本ではそれが難しい。このAmazonのレビューは、「だいぶ前にエリスンが好んで書く題材はエリスンになり、私は楽しめなくなった。」と書いている。この短編集の二年前に出た "Strange Wine" はそんなにオレオレしてなかった印象があるので、たぶんこの二冊の間に転移が起きているんだろうな。
というか Shatterday 収録の作品が書かれた時期にエリスンは4回離婚してて、それが結構ネタに使われている。もっと後に出た Angry Candy とかではそんなに自伝的要素はなかった気がする。


ストーリーやオチが面白い作品と、設定とか雰囲気がメインでラストはどうでもいい作品が混ざってる。どっちも面白いけど、個人的にはオチで決めて欲しいので、その辺の満足度を★の数で表してみた。全体の面白さは感想の長さに比例かな。

Jeffty Is Five

昔書いた感想 http://d.hatena.ne.jp/ita/20021204/p3
設定重視でオチ度★★

How's the Night Life on Cissalda?

冒頭が印象的なSF百選に選ばれたりする作品。

彼らがタイムカプセルを開け時間航行士エノク・ミレンを助け出そうとした時、彼は気持ち悪い物と気持ち悪い事をしている最中だった。

「成人の日」ってSFあったな。あれみたいな。あそこに吸いつくエイリアン。オチ度★★

Flop Sweat

LAのラジオ番組で、司会者が提示したテーマでその日のうちに一本短篇書くという企画から生まれた作品。LA が舞台。オチ度★★★

Would You Do It For a Penny?

1セントでやるかい?やるってのはやるっていう意味。ハリウッドの街でナンパする話。落語みたいな感じ。

The Man Who Was Heavily into Revenge

エリスンが騙された(?)悪徳リフォーム業者がギッタギタのボッコボコにされる話。しかしそれだけでは終わらない。
「宇宙には悪意も善意もない」が、偶然ひどい被害にあった人はそこに無い理由を見出そうとする。エリスンはそういう理由を説明する神話をいくつか書いてる。これもそう。
ノースハリウッドが舞台。オチ度★★★

Shoppe Keeper

魔法の品を売る店は、(ハリポタ以外だと)店を出た瞬間に消えてしまう。じゃあどこに行くんだ?という考えを突き詰めて、エリスンらしいSFになっている。冒頭、店に並んだ品の描写が2ページほどひたすら続くが、これがまた面白い。オチ度★★★★

All the Lies That Are My Life

天才で破天荒なSF作家(もちろんモデルはいわずもがな)の葬儀に出た親友の中堅作家が交流を振り返る。ビデオ遺言の上映で彼は何を引き継ぐのか明らかになる。何かに似てるなと思ったらアマデウスだ。舞台は主にLA近辺。オチ度★★
遺言で、(Pasadenaにある)Norton Simon Museum みたいなのを作れとか、Hirst Castle (カリフォルニア中部にある富豪が作った城)みたいなのを作って若手作家を集めて食わせて書かせるとか出てきて、元LAエリア住人としては楽しい。若手作家がひぐらし The Price is Right とか見てるようなら追い出せ、とか。平日の午前10:00ごろやってる、ズバリ当てましょうとか「ニン!」みたいな番組で数十年続いている。
お、http://en.wikipedia.org/wiki/The_Price_is_Right 35年間司会やってた人がつい2週間前に交代したのか。俺が去年見たときはかなりのお年だったからな。エリスンの作品が書かれた70年代も同じ人がやってたはずだ。
http://www.youtube.com/watch?v=T2s2ofYtfEQ

Django

雰囲気重視。

Count the Clock That Tells the Time

時間を無駄に過ごした人間が吸い込まれる謎の空間。SF大会で公開執筆された作品。他の作品は凝った単語や文が多いけど、これはびっくりするくらい読みやすい。離婚から生まれた話。

In the Fourth Year of the War

過去のトラウマに操られ人を殺す男。
昔すんでた Pasadenaが舞台の本としてこの短編集が紹介されてたけど、この短篇で登場人物の一人が Pasadenaで働いているという記述があるだけだった。離婚から生まれた話。

Alive and Well and on a Friendless Voyage

トラウマに心を閉ざした人間達が乗る謎の船、乗客に語りかける謎の男。離婚から生まれた話。

All the Birds Come Home to Roost

無っっっっっっ茶苦茶恐い。過去につきあった女性がつきあった逆の順番に次々と現れ、去っていく。最後に来るはずの女は、精神病院に入った元妻だ・・・。ある程度実話らしいが、そのへん関係なく傑作。

Opium

ショートショート。現実逃避とは何か。最後の場面は現実か。

The Other Eye of Polyphemus

非モテ女ばかりに縁があり癒してやってる男。聖書関連メタファーあり?こだわらないほうがいいか。
なお冒頭の文は http://www.proz.com/kudoz/1072762 参照。

The Executioner of the Malformed Children

未来からくる化け物のようになった人類の侵略を防ぐニュータイプたち。そして明らかになるおそるべき陰謀。オチ度★★★★

Shatterday

間違って自分の家の番号かけたら自分が出てきた、という話。悪カーク話みたいな。オチ度★★

総評

面白かった作品

  • Jeffty Is Five
  • How's the Night Life on Cissalda?
  • The Man Who Was Heavily into Revenge
  • Shoppe Keeper
  • Alive and Well and on a Friendless Voyage
  • All the Birds Come Home to Roost
  • The Executioner of the Malformed Children

おまけ

コニー・ウィリスの乳揉んだ事件について
http://en.wikipedia.org/wiki/Harlan_Ellison#A_Touching_Moment_with_Connie_Willis_at_Hugo_Awards_2006
「感動的瞬間(Touching Moment)」だってワハハ。