グレッグ・イーガン "Teranesia"

ISBN:0061059803 【アマゾン】

あと1/4くらい。
イーガン作品の場合、登場人物は現在の肉体や精神に関するパラダイムを完全に無効化するような、しかしその状況では非常に合理的な行動を取ったりして面白いんですが、この作品の主人公は合理的思考の持ち主であるにもかかわらず育った環境(ハリーポッタとかに近い?)のせいで非常に非合理的な行動を取ります。具体的に言うと強度のシスコンです。その辺りのウェットさが他の長編と一番違うところかも。そうは言っても「普通の小説」として見た場合は都合いい展開とか核になるアイディアのほのめかし方とか不満がありますが。
話の核になるアイディアはDNA をプログラムとして見た時のおもしろさ、かも。なにしろサルがタイプして偶然出来た、なぜか動くプログラムみたいなものなんで、そのプログラムのスタイルはものすごく変です。最後まで読む前にすこし検索して関係ありそうな話題を勉強してみました。

  • イントロンの解説 生命誌研究館・大濱さん
  • 遺伝子の発現と遺伝子工学東京医科歯科大学・和田さん
  • ヒトゲノムの解読:冬樹さん
    あと昔見たけど検索して見つからなかったジョークとして、ゲノムの発現しない部分を解読したらコメント文だった、てのがありました。こんな感じ:

    /**********************************
    Data type for Human, version 1.00
    Created by God.
    バージョン履歴
    0.0.1 プロトタイプ Adam 完成
    0.0.2 派生データタイプ Eve 完成
    ...
    ***********************************/
    typedef struct Human
    {
    char sex; /* 当分は char で大丈夫 */
    int blood_type;
    ...
    }
    追記:みつけました。 http://www.gnu.no/fun/jokes/dna.html
    イーガンの長編の場合、空間自体とか論理命題の空間とか海藻とか、なんらかのアルゴリズムを実行する現象さえあればそれで意識をシミュレーションしてしまう。でもまさかこの本までもそういうオチってことは、いくらなんでも無いだろうなあ。セントラルドグマが破れて、酵素が DNA を書き換えるとかはじめるとチューリングマシンっぽくなるけど。ビンゴだったらどうしよう。