12章

この章では曲がった空間を扱う幾何学(非ユークリッド幾何学とかリーマン幾何学とか呼ばれる)の中心概念が説明されています。更に相対性理論ローレンツ変換なんかにも到達しています。この章はちょっと気合いが必要です。
気合!入れて!行きます!(cv 比叡改二)

自然な経路/natural path

曲面上の最短距離の線です。飛行機の経路が北半球では北極よりになるような。「測地線/geodesics」と呼ばれます。

接続/connection

「ありのままに今起こった(略)成田から飛行機で北東向きに飛んで真っ直ぐ太平洋を横断してアメリカに着いたら南東向きに飛んでいた。何を言(略)」

曲がった空間を移動すると自分の方向感覚と移動先の方向にズレが生じます。これは地球上の各地点で便宜的に決められた東西南北の方向が各地で平行でない、というのが大きな原因ですが(南北は気温が変わる方向、東西は時差が変わる方向で生活に直結、数学的に平行かどうかはどうでもいいので)、各地で完全に平行になるように方向を決めるのは曲率があるので不可能です。
曲面上で、ある地点で「こっち」と決めた方向の矢印が、曲面上を移動した場合に移動先でどっちを向くかは、元の矢印と移動先の矢印で作られる四角形が平行四辺形になるようにすることで求められます。曲面で「平行四辺形」をどう定義すんのか、という話になりますが、二つの対角線の中点が一致する、という定義によって曲面でも平行を定義できます。この手法は「シルトの梯子」と呼ばれ、イーガンの別の長編のタイトルにもなっています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Schild%27s_ladder


どの方向に動くと、どの方向感覚が、どちらにずれるか、というのを全ての方向の組み合わせについて数値で与えることで曲面の性質を過不足なく記述できます。こちらの世界でも接続と呼ばれます。
http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~kohno/lectures/dg2.pdf
Γ(ガンマ)に添え字i,j,kがついた奴\Gamma^k_{ij}がそれです。三つの添え字が、三つの方向(どの方向 k に動くと、どの方向感覚 i が、どちら j にずれるか)を表します。
(さらに接続の空間微分の次元を持つ量が、ポアンカレ予想の証明やアインシュタイン方程式に出てくる「リッチ・テンソル」に対応、添え字が4つ。計量の二回微分。)


「接続」のアイディア、作者の解説。
http://gregegan.customer.netspace.net.au/INCANDESCENCE/Schwarzschild/Schwarzschild.html#CONN

分割のしかた

悪い分割と良い分割

最初の幾何学

ハブに近くても、ハブから遠くても、いつでも、どこでも、三だった。

絶対時間のあるニュートン力学の結果です。
【経過時間について万人の意見が一致】/ガリレイ変換

二番目の幾何学

相対論効果が全て逆に出てしまう物理です。実はイーガンの最新の"Orthogonal"三部作ではそのような物理に支配されている世界が舞台になっています。
ちょっとした紹介:http://ensemble-sf.info/vwb_1.pdf
【空間の二乗+時間の二乗、について万人の意見が一致】/時間と空間の回転

三番目の幾何学

【空間の二乗−時間の二乗、について万人の意見が一致】/ローレンツ変換

限界スピード

「わたしがショマル方向へ、〈スプリンター〉の岩と比較してこのスピードの四分の三の速さで動いていて、あなたがジュヌブ方向へ同じ速さで動いているとしたら、なにが起こりますか?」

光速の3/4でそれぞれ反対向きに進む人に、相手がどう見えるか計算しても光速を超えない、という話ですね。

単位

必要なのは、軌道の大きさを、スパンでいったらいくつになるにせよ、“八単位”にすることだけだった。

1単位=GM/c^2、Gは重力定数、Mはハブの質量、cは光速、となります。シュワルツシルト半径は2単位となります。