グレッグ・イーガン「ルミナス」続編 "Dark Integers"

Asimov's 誌10月号に掲載
http://www.asimovs.com/_issue_0710/tableofcontents.shtml
さわりの部分がタダで読めるぞ!
http://www.asimovs.com/_issue_0710/Dark.shtml
え?「ルミナス」読んでない?ダメだよそりゃ。人として。読むとしたらこっちの本がいいかな。(もう一つは新品入手不可だった)

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

前回までのあらすじ(ネタバレなし)

ミカン2個とミカン3個を足すとミカン5個になる。リンゴでやっても同じ。物の世界から詳細を落とし概念を抽出して数の世界が作られる。作ってしまえば物の世界は無関係。宇宙からリンゴやミカンが消え去っても、さらには計算をする人間が消え去っても、数の世界は無関係に存在し命題の真偽は人間が証明しようがしまいが決まっている。。。ってほんとにそうか?そうじゃなかったらどうなる?って話。イデア界の覇権をめぐる超計算戦争が、今はじまる!

復習(ネタバレ)

物理現象と、数学的命題の対応がある、という設定。それはどんなんだ?1+1=2に対応する物理現象は?ミカンをどこまで近づければ1+1なんだ?命題、てのは記号列をゲーデル数にしたものか?でも変換方法は任意だぞ。いろいろ分からなくなった。
と、思ったらその辺の話が続編で議論されてた。復習するより続編読んだほうが早いな。
「彼方」から連絡があり、「此方」の孤立した飛び地が命題空間に発見される。「此方」で<不備>の存在に気がついた者が主人公たち以外にいるのか?悪用されたらこの世の終わりだ。主人公はそれらしき噂をたよりにニュージーランドへある数学者に会いに行く。彼は自分で呼ぶところの「暗黒整数」に関する計算をしているらしい。

自然数の定義 http://aozoragakuen.sakura.ne.jp/taiwa/taiwaNch01/node4.html

ちょっと作中で言及される決定論量子論参考サイト。あまり本質にはからんでこないっぽい。ハッタリ&理系オタへのくすぐりか。Equivalence class という概念は使われているかな。電子1個とリンゴ1個を同一視して数学を作るわけだが、同じような同一視がプランクスケールにあると。観測理論において「神はサイコロを振らない」という立場のいわゆる「隠れた変数の理論」においては、現在の量子力学で一つの「状態」とされているものは、我々が区別できないもっと細分化された primordal states をひとまとめにした equivalence class であるとみなす。これら primordal states は決定論的に時間発展し確率とは無縁であるという説。初期の単純な理論はベルの不等式の実験的検証により否定されている。

読み終わった

面白かった。だんだん解明される「彼方」の正体、もともとのアイディアより更に突飛な発想による境界操作、プロセッサの高性能化によってPC一台でハルマゲドンが起こせるようになってしまった緊迫した情勢、そしてキューバ危機のような状況が訪れる!WAR GAMES と「最初の接触」を合わせたような感じ。

男女の仲に関しては、最近の数作はハッピーなのが多いな。非モテ卒業かイーガン?

御年80歳になるユアン教授は FUTURAMA の博士のイメージがどうしても重なる
http://www.youtube.com/watch?v=kRCvkuFJE9A

以下は読後に読んで下さい

あからさまなメタファー:始めのアクシデント=911、彼方=アメリカ、キャンベル兵器=核兵器、此方=アフガニスタンイラク
細かいツッコミ「安定な飛び地」:ガウス=ボネの定理を考えれば、孤立した領域の境界すべてを平らにすることは不可能だろ。あ、六角格子なら大丈夫か。こんなかんじで
考察:作中のC++で定義された dark 型は4096ビット。10進数だと1200桁程度。一方これによれば観測可能な宇宙の推定の大きさは、5.4 × 10^61プランク長。これを3乗あるいは4乗するとしても1200桁には全然届かないので4096ビットはかなり余裕。
考察:隠れた変数を使う謎の物理学に数学が制約を加えて通常の量子力学が出てくる。数学の制約はこれまでどういう計算してきたかの履歴による。これが数学を「覚えている」。しかしあまりにも大きい数を扱うとエラーが起こって変なことになる。