仕事

学者として紹介されたけど、この日記読むと遊んでる話しか書いてないな。今やってる仕事を書いてみよう。
あ、今年は Caltech にいますが、本籍は日本の研究所です。(あと、俺が出ててなんであの人が出てない?って人がいっぱいいますが、どうしよう)
燃料電池は水素を貯蔵する必要があるけど、水素は小さいので金属のすき間に高速で拡散し工学的特性を変化させ、金属が非常に割れやすくなる。水素が多くある部分は塑性変形しやすくなり、そこに剪断歪みの集中がおこる。すると水素は歪みの大きい部分でエネルギーが下がるので更にその部分に水素が集まることで応力の集中が起きやすくなり、割れやすくなる。水素が多い部分で実際にどういうことが起こっているのかは原子スケールのシミュレーションで調べる必要があるけど、かなり大きなサイズが必要。今やってるテーマでは原子全部を扱うんでなく、金属の歪みを担う転位のみを扱う計算で高速化を図り、それと水素の拡散を組み合わせて水素の影響を調べる。転位のコードはプリンストンに移った元同僚が開発していて、水素の拡散を自分が担当。ワークロードを抑えるためにお互いのコードが相手のルーチンを呼ぶのは2、3箇所のみにした。しかしバグレポートが頻繁に送られて来る。
転位と水素の相互作用がこのモデルの核になるわけだけど、そこは80年代に作られた鉄と水素の原子間ポテンシャルを使っている。しかしこれはいくつかの実験データを再現するようにパラメータをフィットしたもので、全てを再現するわけではない。試しに自由表面を作って水素を配置してみたら吸着エネルギーが量子力学計算より全然小さい。自分でポテンシャルを合うように改造すればいいかもしれないけど、それはそれで一つの論文として出してコンセンサスを得ないと使えないかも。
もうひとつのテーマも亀裂と組成変化の組み合わせで、応力腐食割れをやっている。金属が引張応力と腐食環境の両方にさらされると、非常に弱い応力でも亀裂が生じてしまう。金属材料は一般的にたくさんの結晶粒が集まって出来てるけど、その結晶粒の境目が引っ張られて少し開き、そこに酸素や塩素が入り込んで脆くする。するとそこが一気にバキっと割れて亀裂が進展し、その更に奧にある結晶粒の境目に酸素や塩素が入り込んで、という繰り返しで金属が割れる。これも応力の計算と元素の拡散を一緒に計算する必要がある。
結晶粒はランダムな多面体の形状で、こいつが応力計算しようとすると結構面倒。今その部分を院生さんと一緒に作ってるところ。