20世紀SF1940収録「時の矢」A.C.クラーク
タイトルは物理で長年問題となっているパラドクスの名前。原子や分子のスケールの映像は時間を逆回しにしても見分けがつかないのに、現実のスケールで例えばコップを落として割る映像を逆回しにすると明らかに変だと分かる。現実のスケールでは時間と共に「エントロピーが常に増える」ので、その逆の現象は奇妙に見えるというわけ。昔プリゴジンがNTTデータのCMでコップ割ってたなそういえば。エントロピーは簡単にいうと「乱雑さ」で難しく書くと -ΣPi Log(Pi) 、ただしPiはi番目の事象が起こる確率。全確率が等しいと Log(場合の数)になる。
いくつかのSFではエントロピーをむにゃむにゃむにゃ、して時間を逆行するというアイディアが出てくる。割れたコップが床からとび上がって合体して机の上で完全なコップになる、ということも確率が少ないだけで起こり得ない現象ではないから、時間を逆行する人間ってのも不可能じゃない。『ハイペリオン』ISBN:4152020792 も抗エントロピーむにゃむにゃがなんとか、という説明だったな。ただし無矛盾であるためにはケツからンコを吸引して空気の分子からエネルギーを吸収して口から食べ物を出さないといけない。あぁ、レイチェル!毎日ンコを用意するソル父さん。うぅ、泣ける。
ただ、エントロピーの話は「時間がどっちに流れているように見えるか」という話であって因果律はまた別の話。「未来から来ました〜」っちゅう、ンコ吸収する人が明日の競馬の結果を教えてくれても、たぶん当たらない。当たるとすれば床の割れたコップが元に戻るくらいの確率のはず。
話は戻ってクラークのこの短篇では「負のエントロピー」というガジェットが出てくる。シュレディンガーが生物に関して述べた時にも「負のエントロピー」という言葉を使ったけどこれは単に「エントロピーの反対」というような意味。実際はシャノンのエントロピー、-ΣPi Log(Pi)は ΣPi=1 かつ Pi>0であるかぎり常に正になる。でも "negative entropy" で検索したら、おもろい論文がヒット。EPRみたいな量子的絡み合いがあると量子力学版条件つきエントロピーが負になることもある、という論文。N.J. Cerf and C. Adami, Phys. Rev. Lett. 79, 5194 (1997)でpreprintもある。PDF が欲しいときはOther format からたどれます。まあEPRみたいな変な状態で条件つき確率なんか考えたら変なこと起こりそうなのは直観で分かる。ちゃんと読んでないけど、量子通信で反キュービットが時間を逆行するとか量子テレポートがどうのとか書いてある。うーむ、SFチック。