- 作者: 日下三蔵,大森望
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2009/06/25
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子供の疑問で、「-1 × -1 はなんで1 なの?」てのがありますが、一番いい答えは「じゃあお前が -1× -1 = -1 になる数学を作って便利かどうか試してみろ」てのではないかと。
新しい数学だから新しい記号★をつかうことにして。まず1は何にかけても変化させないから 1★1=1 と 1★-1 = -1と-1★1=-1は確定。それで -1★-1=-1にしてみる、と。表にすると
| 1 -1 --+------- 1| 1 -1 -1|-1 -1
で、もっと一般化して二つの物の掛け算がある場合にどんなもんが作れるかと考える。でもあんまり変なものを考えてもしょうがない。掛け算なら1は外せんだろJK、というのがルールその1になる。何に掛けても変化させないもの。登場人物が2人の場合、もうひとつをxとすると、掛け算のルールは
| 1 x -+------- 1| 1 x x| x 1
か
| 1 x -+------- 1| 1 x x| x x
のどっちか、ということになる。 -1★-1=-1の厨数学は後者。1にxを掛けるとx、xにxを掛けてもx。実はここですこし困ったことになる。xを掛けるとなんでもxになってしまうので、xを掛ける前はなんだったかが分からなくなる。xを掛けてaになる数は、普通の演算なら a/x という割り算で計算できるけど、それができなくなる。-1で割れない。まあもともと0で割るのも禁止されてんだからもう一個禁則事項が増えてもいいじゃん、てならいいんだけど。
x として行列
1 0 0 0
を考え、1としては単位行列を考えれば掛け算は厨数学の表に一致する。xの行列は幾何学的には二次元平面を直線につぶしてしまう変換を表す。潰してしまうと元がなんだったか分からないので元にもどせない。xで割る操作に相当するのはxの逆行列だけど、それは存在しない。
で、普通の「群」では、やっぱ元にもどせなきゃヤヴァいでしょJK、としてこういうのを禁止する。これがルールその2。禁止しない場合は「モノイド」といってそれはそれで数学の対象。物理で使う「くりこみ群」は、物を見る解像度を下げて「細けぇこたぁいいんだよ」という感じで自由度を減らすけど、これも一度消してしまうと情報は復活できないのでモノイドとなる。ちなみにさらに戻せないし1もなし、というのは半群と呼ばれる。こういうのとか
a b a b b b a a a b a b a b b a
これは後述するa★(b★c)=(a★b)★c を満たさないので駄目
a b a b b b a b
というわけで登場人物が2人でルール1と2を満たす「群」のルールは、
| 1 x -+------- 1| 1 x x| x 1
しかない。これは1と-1の掛け算以外にも、1bit の足し算とかxorとか、まあいろんなところでガイシュツなもの。
では3人だとどうか。1とxとy。まず1を掛けるのは決まってるので表が埋まる。
| 1 x y -+------- 1| 1 x y x| x y| y
次にx★xが何になるか考える。xだとすると前の厨数学になってルール2が守れないのでダメ。なので1かyということになる。1だとしてみよう。
| 1 x y -+------- 1| 1 x y x| x 1 y| y *
*のところ、y★xは何にすべきか。厨数学がルール2を破った原因を思い出すと、別の数にxを掛けて同じ数になってしまったことだった。そうならないためには y★xは、1★x=x ともx★x=1とも別でないといけないのでyしかない。
| 1 x y -+------- 1| 1 x y x| x 1 y| y y
しかし下の段を見ると、y★1=y、y★x=yとなっていて、左からyを掛けた時にルール2を破ってしまう。結局、ルール2を守るためには「数独」みたいに縦横に同じ記号があってはダメ、てことになる。そうなると
| 1 x y -+------- 1| 1 x y x| x y 1 y| y 1 x
しか許されないことになる。これは例えばxとyを1の三乗根の2つの複素数とすれば掛け算で同じ表になる。また0,1,2 を使った足し算で3を超えたら3で割った余りにする、てのでも同じ表になる。
では4人の場合。同じようにやると、
1 x y z 1 1 x y z x x 1 z y y y z 1 x z z y x 1
か、
1 x y z 1 1 x y z x x y z 1 y y z 1 x z z 1 x y
のxyzを適当に入れ替えたものどれかになる。前者は以下のように書き直すことができる。
11 1x x1 xx 11 11 1x x1 xx 1x 1x 11 xx x1 x1 x1 xx 11 1x xx xx x1 1x 11
2人の場合の1とxを2つ並べ、左の桁と右の桁で別々に2人の場合の計算をやってるだけ。2ビットの数のxorみたいな。こういう感じで何個か群を掛け合わせればどんどん大きな群を作れる。逆にこういう分解ができないものを単純群と呼ぶ。
1 x y z 1 1 x y z x x y z 1 y y z 1 x z z 1 x y
こっちは単純群。ここで、x=i、y=-1、z=-iと複素数を代入すると掛け算は上の表に一致する。てな感じで勝手に俺ルールで掛け算を作っても、常識的なルールを守る限り激しくガイシュツなものしか出てこないよ、と。
じゃあもっと登場人物を多くすればガイシュツじゃないもんが作れるの?と数学者は考えていろいろやったわけで。そしたらモンスター群ってへんなのがあったよ、と。
位数5
5個の場合、ルール1と2を満たす掛け算の表としては以下のようなのがある
1abcd 1 1abcd a a1dbc b bdca1 c cb1da d dca1b
しかし例えばこれに従ってb★b★bを計算すると、b★(b★b)=b★c=aと(b★b)★b=c★b=1で答えが違ってしまう。これはよくない。どういう順番で計算しても同じになるべし、というのをルール3とすると上のようなやつは除外される。
最終的に出てくるのは0〜4同士の足し算を5で割った余り、と同じルールになる。
位数6
ここから、ルール1,2,3を満たして、かつ表が横と縦を入れ替えても同じにならないものが出てくる。a★bとb★aが違うようなやつ。これは3つの物を入れ替える操作に対応している。また2のやつと3のやつを組み合わせたもの、0〜5の足し算を6で割った余り、なども出てくる。