地球に穴をあけたらどうなる?

この質問。http://q.hatena.ne.jp/1412645084

たかだか標高8kmの山に登った程度で命に関わるくらい空気が薄くなるわけで、じゃあ反対に6000kmくらい下にいったら超はげしく空気が濃くなるよね、って話。
理想気体を仮定して計算すると指数関数的に濃くなっていき、数百kmで液体の濃度に近くなり理想気体として扱えなくなります。
ちなみに、圧力の増加=高度差×モル濃度×重力加速度×モル質量、これを解くとモル濃度=地表でのモル濃度×exp(深度×モル質量×重力加速度/(気体定数絶対温度))
理想気体で計算できる範囲では、指数的増加のスピードはモル質量が重いほど速いので、地表では少ないキセノンなんかが途中で酸素や窒素を追い抜いて最初に液体の濃度に達します。
そうなるともう酸素や窒素は共存できなくなって途中からはほぼ100%キセノンのみという状態になるはずです。
ちょいと面倒ですが実際に計算してみました。
混合気体状態方程式は、ファンデルワールス方程式を使います。理想気体からのズレを表す係数は各気体成分の値から分率を使って計算されます。
圧力の増加=高度差×モル濃度×重力加速度×モル質量、で圧力の増加を計算し、状態方程式からモル濃度の増加を計算。
次に各成分について自由エネルギー= 高度×モル濃度×重力加速度×モル質量- RT モル濃度 Log(モル濃度)、の変分を使って、これと全体の増分が上の計算と一致する拘束条件でラグランジュの未定乗数で各成分の増分を計算することを繰り返します。
100km付近でキセノンの一人勝ちになり他の気体が減っていきます。

割合はこちら。最初に重い酸素やアルゴンが増えていくけど、途中からキセノンに押され150kmからはほぼキセノンが100%に。

そこから下のXeの圧力変化はこんなかんじ。周囲の温度はどっかから適当な値を拾ってきて線形補完しました。右の相図はシミュレーションの論文から引っ張ってきました。圧力が上がって1000km付近で固化。地球中心付近では重力が0に近づくので圧力はサチるけど温度が上がっていくならまた液化するかも、というところ。ちょうど相境界のへんをうろうろしてるんでどっちになるか微妙ですが。
ちなみにXeの最大圧力は80GPa程度に対し、周囲の地球の圧力は300GPa以上。個体Xeよりはるかに重い鉄とかいろいろあるんでトンネルの壁がなければさらに潰されてしまいます。圧力が周囲と同じ、という条件でやればもっと早く固化するでしょう。
http://www.nature.com/nature/journal/v401/n6752/fig_tab/401432a0_F1.html#figure-title

追記

gの変化:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E7%90%83%E5%86%85%E9%83%A8%E7%89%A9%E7%90%86%E5%AD%A6#.E9.87.8D.E5.8A.9B.E5.8A.A0.E9.80.9F.E5.BA.A6.E5.88.86.E5.B8.83
線形に減るんじゃないんですね。温度とあわせて、あとで計算しなおします。定性的な結論は変わりませんが。

Xeより重い気体として、地表のUから出るラドンや、火山から出る水銀(はてなの質問コメントで指摘していただきました)などがありますが、生成、気流による拡散、地表への沈降、化学変化、崩壊などの過程を経る非平衡状態にあるので計算が困難で除外しました。平均濃度が変動するのでデータがありません。
http://www.engineeringtoolbox.com/air-composition-d_212.html
また地上では地表で熱せられた気体が軽くなって上にいったり気流で拡散するので単純なexp(-ghρ/RT)の式からは大きくズレます。

Xeは安定同位体が5種類あり、分子量1の違いは深度が1km*絶対温度くらいあると顕在化するので重いものが地下で精製される可能性があります。後で計算します。

追記

こうして計算されるのは無限の時間が経過した後の平衡状態。そこに達する時間スケールをざっくり見積もる必要があります。
たとえば液体になった時に重い原子が下で濃くなっていく速度は拡散のドリフト速度で評価でき、アインシュタインの式から拡散定数*原子の重さの差*加速度/ボルツマン定数*温度で、原子量1の違いで1mm/年程度です。遅い。
そうなると穴をどう掘るか方法に依存することに。まあ無理なものを考えても詮無いことですが、たとえば筒をギュウギュウ押し込むとすると内部の物質も一緒に落ちて上から新たに供給されることに。一年で数ミリづつ押し込めば実現できるって感じでしょうか。数十億年あれば地球中心に達します。
そう考えれば木星とか中心に重い同位体が集まっていても不思議じゃない。まあそれ以前に水素とヘリウムの比率からしてよく分からないようですが。

追記

この手の計算は極限状況での物質の状態方程式がキモになります。Xeはいろいろ調べられているようですが、どうも論文によって適用範囲が違って振る舞いがかなり違います

簡単なファンデルワールスだと密度が一定以上にならないけど、非常に高圧だと結構圧縮されるようです。これが中心の圧力にも効いてくるんで重要。J.Chem.Thermo.という論文に出たのがよさげ。1000K以上は範囲外だけど無理やり線形外挿で使ってみた。
つづく