法月綸太郎「ノックス・マシン」

野性時代2008年5月号
SF方面各所で話題の、馬鹿数理SFミステリ。そのぶっとび具合についてはこちらを参照:http://d.hatena.ne.jp/cataly/20080508#p2
作中の設定をまじめに考えてみる。 ネタバレ。

ひとつの小説は10個の実数パラメータで特性を表現できる。ノックスの十戒にからんだ10個だけど、具体的にはどういう量か。それぞれの項をどの程度遵守しているか、という量になるのかな。
そして作家と読者の間の「完全情報二人ゲーム」が仮定されている。作家が読者の読みを推測しその裏をかく作品を書くというゲーム。作家全体および読者全体の特性は、上記10次元空間での分布として表される。
これはゲーム理論における混合戦略とも考えられる。たとえばジャンケンでの最強戦略はグーチョキパーを 1/3の確率で出すものになるけど、一般的にゲーム理論の最適戦略は複数の手を確率的に出すことになる。また小説が一つ出るたびに読者の読みは変化するので作家もそれに応じて手を変化させる。これがナッシュ均衡に達せず、60年周期で変動するような動的平衡状態になるということらしい。
この変化は小説が出るというのを時間の単位にした離散過程だけど、これを連続時間の方程式にしたのがウィーナー過程ということか。

そして虚数の導入。むむー。
ひとつの可能性は確率を複素数にして、混合戦略をさらに量子的に重ね合わせて量子ゲームを行うという方法。作品が出るたびに読者と作者は量子ゲームを行い世界が収束あるいは多世界に分岐する。しかしこの方法は第5項だけを特別に扱うものではない。
http://en.wikipedia.org/wiki/Quantum_game_theory

もうひとつは第5項のパラメータを複素数にする。中国人が出ない=1、出る=0として、iてのはどういう状況だ?というか-1は?想像上の中国人が出ればiなのか?
参考 http://sigfpe.blogspot.com/2008/04/negative-probabilities.html

話としては、ノックスマシンと時空特異点の話がからんだほうが面白い。前者の方がその可能性があるかも。

なぜあの時点が特異点なのか。それはあれが多世界をまたがない唯一のClosed Timelike Loop だから。そして第5項が存在の輪を形成。なぜあの時点なのか。それは知らん。

もっと物理ジャーゴンで悪乗りするなら:中国人生成・消滅演算子を導入しノックス場を第二量子化。これにより、電子が二つの状態を遷移する間に光子(Virtual Photon)を放出しそれを自ら吸収するプロセスのように、文と文の間で中国人が生成・消滅することにより仮想中国人(Virtual Chinamon)がプロセスに導入され、これを無限次まで繰り込むことにより No Chinaman 変換が自然に導かれる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Virtual_particle
もうなにがなんだか。