普通

定義(definition)、公理(axiom)、定理(theorem)

ここでは主に「空間」に関する数学が考察されています。空間といってもいろいろあり、名前だけ羅列するとベクトル空間ユークリッド空間リーマン空間などなど。これらの違いは、我々が暮らしている空間での常識的な概念である「まっすぐな線」「距離」「角度」といったものを厳密に定義して採り入れているか、そういう概念を定義してないグニャグニャした変な空間を考えるかというところにあります。多様体というのがそういう「決りごと」が一番少なくて一番グニャグニャしています(だから勝手にいろいろ俺ルールでやれるはずなのに、なぜかどうしても球面を平らにできないとヤチマは不思議に思っているわけです)。重力とかがある場合には空間が歪むので、我々が日常考えている空間の概念は安易に自明のものとしない方がいいのです。
公理」は「とりあえずそれが正しいと仮定していろいろ考えてみる」という思考の出発点のようなもので、ここからスタートして論理的な演繹とか計算とかをすることで、色々と興味深かったり便利だったりする「定理」が証明されます。
ユークリッド空間てのが一番常識的でまっすぐな空間です。ユークリッドはこの空間では「どこまで行っても交わらない平行線が引ける」というのを公理にしました。この空間では「ピタゴラスの定理」(三平方の定理)などが成り立ちます。平行線が引けるというのを公理にしないで、「いや、交わっちゃうこともある」という曲がった空間を考えるのが非ユークリッド幾何学になります。そうすると、もはやピタゴラスの定理は成り立ちません。

空間の曲率

面白い絵がたくさんあるページ: http://scholar.uwinnipeg.ca/courses/38/4500.6-001/Cosmology/Properties-of-Space.htm

普通は四角形を描くと、四つの角の角度は合計で常に360度になりますが、球の上に四角形を描くと360度より大きくなります。曲がっていれば常に360度からずれるかというと、そうではなくて、例えば紙を丸めた円筒に四角形を描くと内角の和は360度のままです。広げて平らにすれば元の紙に戻るから。
紙で円筒は出来るけど、球はどうでしょうか。いちおうできるけど、どうしても紙にシワが寄ってしまいます。大雑把に言って、シワができる=曲率がある、です。
四角の辺の上を歩いて一周すると、4つの角で何度曲がったか、を合計するとこれも平面では360度になります。これは何角形でも同じく360度。しかし紙を無理矢理シワシワにして球面にかぶせ、これに四角を描いてその上を歩くと360度より小さくなります。シワを伸ばして紙を平らに戻すと、まっすぐだった辺がシワのところで曲がっています。足りない角度はここに取られていたわけです。チョコエッグの包装アルミなんかは、こういう歪みを予め計算して印刷する必要があります。

トーラス(円環面)

ドラクエの世界地図では、ずっと東に進んでいくと西からでてきて元の場所に戻り、ずっと北に進んで行くと南から出てきてやはり元の場所に戻ります。世界地図を四角い紙に書いたとしたら、上下の辺がつながっていて、左右の辺もつながっている、というものになります。実際につなげてみましょう。まず上下をセロテープでひっつけて円筒にします。これはできます。次にこの状態で左右の口をつなげてドーナツ形(トーラス)にします……むずかしいです。むりやりやると、どうしても紙にシワがよってしまいます。ドーナツ形に曲率があるためです。

光の進路

光が進む時は最短の経路を通って進みます。空間に曲率がなければまっすぐ進みますが、空間が曲がっていると光も曲がって進むように見えます。本当は光はまっすぐで、我々のモノサシが曲がってしまっているわけですが。メルカトール図法で書いた地図に、東京ーロス便の飛行経路を書くと北側に弓なりに湾曲します。これは遠回りではなく、地球儀の上で二点を糸でつないでひっぱるとこの経路になります。歪んでいるのはメルカトール図法のモノサシなわけです(実際北極と南極はめちゃくちゃに歪む)。トーラス上を進む光も、曲率の関係で曲がって進むように見えます。そうなると目に入って来る光は曲がってから入って来るので目で見た景色が歪んで見えます。

通常は下図の1aのように目から出た光は赤い線を進み遠くヘ行くほど離れるので、目からみた景色は1bのようになって、地面にある青い平行線は遠くヘ行くほど接近します。しかし光が2aのように曲がると目で見た青い平行線は一旦接近してまた離れます。焦点の位置を越えるとまた接近しますが、この領域では右にある物からでた光線は目に左から入り、左にある物からでた光線は右側から入るので左右が逆に見えます。

ドーナツを平らに

紙にシワを作らずにドーナツ形を作れないもんでしょうか。実は作れます。でも紙を四次元空間で曲げないと作れません。
ドーナツ形は数学で「円×円」と表現したりします。同様に円柱は「円×線」と表現したりします。円の各点をのばして線にすると円柱になる、というイメージです。

円柱の場合、円は2次元図形、線は1次元図形なので、出来る図形は1+2=3次元になります。でも無理矢理これを2次元に描くこともできます。歪んでしまいますが。

ドーナツ形の場合、同じように円×円は、2+2=4次元では歪まない(曲率がない)絵を描けますが、これを無理矢理3次元で描くと歪んでしまいます。

球を平らに

では、球はどうでしょうか。四次元とかのウラワザを使って。これがどんなウラワザ使っても無理だと証明しているのが作中の議論です。時間かけて考えれば予備知識はなくてもできる証明なんで、ぜひじっくりと考えてみてくださいませ。
作中に描写されてる絵を作者のページで見られます。http://gregegan.customer.netspace.net.au/DIASPORA/02/02.html#SPHERE

ガウス=ボネの定理を使った手品

  • なんでもいいので、なんかポリゴンで出来た立体を思い浮かべてください
  • ある頂点を見て、そこを紙の展開図にしたとき360度から欠けている角度を計算して下さい。たとえば立方体なら四角が3つで、90度×3=270度なんで360度には90度足りません。
  • 足りない角度を全部の頂点で足して下さい。答えは720度、当たってますね?
  • え?0になった?ああ、穴の開いた立体を考えましたね?

タネ明かし
すべての頂点で(360-その頂点にある内角の合計)を合計する訳ですが、これは言い換えると (360*頂点の数 - すべての多角形の内角の合計) となります。「すべての多角形の内角の合計」は各面で計算してから合計すると簡単です。例えば三角形なら180度、四角形なら360度、六角形なら720度などと決まっているからです。N角形なら 180*(N-2)度になります。
この 180*(角の数-2) = (180*角の数 - 360) を全ての面について合計する訳だから、全部では(180*全部の角の数 -360*面の数)、になります。ところでN角形はN個の角とN個の辺を持っています。立体の頂点は何個か角が集まって出来てて、何個かはいろいろな場合があるけど、立体の辺は必ず二つの面がひっついて出来ています。したがって全部の角の数を数える代わりに、立体の辺の数を数えてそれを二倍すれば同じ数が出てきます。
まとめると、上の手品の答えは 360*頂点の数 - (180*2*辺の数 -360*面の数) = 360*(頂点の数-辺の数+面の数)となります。括弧の中はオイラー数と呼ばれ、穴のない立体では常に2 になります。穴がある場合は2-2*穴の数になります。